第七百韻 『椿市の』の巻
2011.03.02~2011.03.21
1 発句 椿市の乙女の名さへ忘れけり 春 草栞
2 脇 かすむ思ひ出たどり大和路 春 私
3 第三 亀の鳴く聲に呼ばるる心地して 春 郎女
4 雨戸開ければ静かなる庭 不夜
5 羽目板の狭間に細き日の光 ふない
6 硯の蓋に埃積もれる 栞
7 まどろめば月影うごく文机 秋月 不夜
8 利き酒セットでかほど酔ふとは 秋 私
初ウ
9 新蕎麦を振る舞はんとて二人連れ 秋 ふない
10 美術の秋もにはか蘊蓄 秋 私
11 絵心のあれば惹かれる恋心 恋 栞
12 思ひつめては見えぬ現実 恋 不夜
13 君がため幾度ハイウェイ走りしか 恋 郎女
14 都市間バスの集ふ駅前 ふない
15 錦なき身では故郷に帰れない 私
16 無駄な意地だとひとは言ふけど 私
17 禁煙と称して電子タバコ吸ふ 不夜
18 啓蟄なればそつと這ひ出し 春 栞
19 おにぎりを貰ひ早立ち遍路宿 春 私
19 校舎裏ひとり始業の鐘朧 春 夢
20 花の香りの消え切らぬうち 春花 ふない 両句に
21 清らかにほゝゑむナースに幸ぞあれ 私
22 ノルマ厭はず身を尽くすとや 栞
二オ
23 シベリアの日々をおもへば易きこと 郎女
24 家の中でもダウン着てゐる 冬 私
25 見てはだめ私が機を織るところ 夢
26 銀河を渡るその日来るまで 秋 不夜
27 いく度の荒波越えて望くだり 秋月 栞
28 欠けたる碗で里芋を食ふ 秋 ふない
29 すれ違ふ虫の垂れ衣艶かし 恋 夢
30 手加減せずに腹つねる妻 恋 私
31 阿も吽も知り尽くしたる間柄 恋 不夜
32 相棒あつての事件解決 栞
33 納涼舟粋でいなせな江戸の宵 夏 夢 納涼舟(すずみぶね)
34 音なく花火の上がる遠ち方 夏花 私 遠ち方(をちかた)
35 つれづれに刺し子をしつゝ見やる窓 郎女
36 うつれる顔に母のおもかげ 私
二ウ
37 ハネムーン葉書一枚寄越しけり ふない
38 嫦娥つれなく弓も届かず 秋恋月 夢
39 晩稲刈る野良の娘に惚れ直し 秋恋 栞
40 色草の身の遊女儚し 秋恋 夢
41 こころまでは売らぬ矜持を保ち生き 私
42 古老に似たりサーカスの象 ふない
43 万物の長と言ふこそ驕りなれ 私
44 流転の末に忍び寄る危機 栞
45 悠然とけふも乞食山頭火 不夜 乞食(こつじき)
46 旧街道の辻を横切る ふない
47 囀りの影羽ばたきて春障子 春 夢
48 吾児が仕切りの雛のまゝごと 春 私 吾児(あこ)
49 降り積もるブルーシートの桜蕊 春 不夜
50 水泡の筏消えつ結びつ 夢 水泡(みなわ)
三オ
51 瀬を早み岩によどめる恋の川 恋 私
52 また逢ふ日まで契り守りて 恋 栞
53 遠ざかるバスの後席夏帽子 夏 不夜
54 二重の虹のトンネルに入る 夏 郎女
55 開演のブザー響きて宝塚 夢
56 トーン下がれどやまぬざわめき 私
57 こつこつと襖仕切を指で打つ 冬 ふない
58 時間稼ぎに生姜湯を出し 冬 栞
59 図書館で日暮らす主に電話して 私
60 実家へ帰る旨を告げたり 不夜
60 あはれ知る身のかなかなの声 秋 夢
61 延べ段に小花こぼるゝ萩の寺 秋 私 両句に
62 さやけき月の宿と為さんや 秋月 郎女
63 茸籠は逝きし嫗の形見にて 秋 栞
64 軍手を嵌めて山に踏み込む ふない
三ウ
65 末黒野の春の息吹を信じつつ 春 夢
66 東風吹く中を犬と遊ばむ 春 不夜
67 宴飽きてくゞる小袖の花の幕 春花 私
68 ふと我にのみつき纏ふ虻 春 私
69 もそつとで痒い所に手の届き 栞
70 金が梯子の吉原天守 夢
71 猪牙舟にけふも其角の姿あり 不夜 猪牙舟(ちょきぶね)
72 ふる傷痛しあすは雨かも 私
73 病室で父方の祖父笑ひけり ふない
74 家業を継ぐと方便のうそ 私
75 無心には殺し文句を用意して 私
76 顔を洗つて出直す覚悟 栞
77 ふつか酔ひ頭かゝえる昼寝覚め 夏 郎女
78 糸瓜の花の上に飛行機 夏 ふない
名オ
79 陽炎の線路遥かに無人駅 春 夢 陽炎(かぎろひ)
80 はや春月の出づる山の端 春月 不夜
81 掌にすれば福来たるらし落し角 春 栞
82 玉藻妲己も我が虜にて 恋 夢
83 ラブゲーム本気にさせてそつと逃げ 恋 私
84 得がたいものは永遠のときめき 私
85 印象の光に溶ける海と舟 夢
86 題名のない曲の愉しみ 栞
87 人生は変転やまぬストーリー 私
88 終の棲家は雪積む里か 冬 不夜
89 楼台の灯り眺めつ寒施行 冬 栞
90 ふと花の香の溢つ暗闇に 春花 夢
91 こころあてに待てば夢見の春の夜半 春恋 私
92 お伊勢参りの草紙ひもとく 春 ふない
名ウ
93 リフレッシュ休暇もらへど素寒貧 私
94 煩悩だけは無尽蔵なり 栞
95 我が住むは資源少なき秋津島 不夜
96 見飽きつることなき富士の山 郎女
97 折々の襲の色目麗しく 夢
98 温度分布に一喜一憂 栞
99 多様なるひとの違ひを受け入れむ 私
100 幸くとばかりともに唄ひて 郎女 幸く(さきく)
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